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別冊・詩と小説で描く「愛の世界」

今は亡き妻の日記帳。其の一

結婚するなら恋愛より見合いの方が良い、と昔かたぎの方は言う。
これは結婚が本人同士の結びつきよりも、
家と家の結び付きを重視した考え方とも言える。
したがってお互いに気に喰わなくなったからと言って、
そう簡単には離婚できず、結果“見合いの方が良い”となるわけだ。
しかし、当人同士は殆ど過去を知らぬまま結婚するわけだから当然リスクはある。
結婚以前、どんな異性と関係があったかなど全く知らぬのだから・・・。

~日本一の幸せ者~
妻の日記1-1
先日、妻・初恵の一周忌が終わりました。妻を失った当初、私は抜け殻の様に
成ってしまい、精神的に立ち直るまでかなり時間が掛かりました。
趣味だった釣りやゴルフにも全く行く気になれず、私は家の仏壇の前でひたすら
拝む毎日を送っていたのです。

それまで別居していた長男夫婦も私を気遣ってか、頻繁に孫を連れて訪れて
呉れるように成りました。無邪気に遊ぶ孫の顔を見ていると、
心に立ち込めた暗雲が徐々に消えて行くような気分になってきます。

息子の嫁が作ってくれた手料理は大変美味しく、愛妻を失った寂しさもようやく
紛れるようになりました。

時間が経つにつれて落ち着きを取り戻した私は、今まで手をつけず其の侭にして置いた
初恵の遺品を片づけようと思い立ったのですが、
さて何から手をつけようか・・・。そう考えて見たものの、思い出の品物は余りにも多く、
どれから手を付けたらよいものか皆目検討もつきません。

「義父さん、そう言う時は義母さんが一番大切にしていたものから
 片付けられたら如何ですか?」
嫁のアドバイスもあり、私はまず着物からかたづけようと思ったのです。
初恵の着物の入った和箪笥の引き出しを開けてみました。

樟脳の匂いと共に出て来た色鮮やかな着物や帯。中でも妻が一番気に入っていた
京友禅の草木染の着物が目に入りました。
これは私が二十年前にプレゼントしてあげた着物です。

あまり自己主張しなかった妻ですが、いつも呉服屋のショーウィンドの前を通る度に
立ち止まって見ていましたので、私が誕生プレゼントに買ってあげたのです。
初めて袖を通した時の初恵の笑顔が昨日のことの様に思い出されます。


妻の日記1-2
その着物を出してみると、その下に古ぼけた紅い表紙の本が置かれてありました。
手に取ってパラパラめくってみると、どうやら日記のようです。
妻が日記を付けていた等と言う事は、今まで全く知りませんでした。

(読んではいけないよな・・・)
一瞬そう思ったのですが、亡き妻が密かに綴っていた日記です。
私に面と向かって言えなかった事が色々書かれているに違い有りません。

私は読んでみる事にしました。既に亡くなったとは言え、初めて読む妻の日記。
心なしか持つ手が震えてしまいます。
私はなにか怖いような複雑な心境で、その日記を読み始めました。

《昭和三十六年三月二十日》
お見合いをしてから三度目のデート。
昭夫さんは私にとても優しくしてくれる。だが、それが心苦しいのだ。
もうそろそろ、彼にはっきりした返事をしなければならないだろう。
でも、このまま両親の言う通りに結婚していいものかしら。
確かに昭夫さんは公務員で身元もしっかりしている。
あの人と結婚したら一生安泰なのかもしれない。
でもそれが本当に幸せなのだろうか。
自分の気持ちに嘘をついたまま結婚しても、
決して幸せになれるはずがない・・・

初恵の日記を読んでいて、私の脳裏に見合いから結婚に至るまでの事が
鮮やかに蘇ってきました。
当時私は税務署の職員で二十五歳。初恵は二十二歳で、
父親の経営する会社で事務をしていました。

見合いで初めて会った時、初恵は下を向いてばかり、
ろくに喋りもしませんでした。何となくですが、
彼女の心が私にないと言うことは分かっていたのです。
妻の日記1-3
しかし、彼女は清純そのもので私は初恵に完全に心を奪われてしまい、
如何しても彼女と結婚したいと思ったのです。

私は猛アタックを掛けました。しかし、二人きりでデートをしても、
どこか上の空の初恵。私は段々彼女の態度に腹が立ってきました。

上野公園を歩きながら、私は思い切ってこう言ったのです。
「初恵さん、僕だってバカじゃない。君がこの結婚話に乗り気じゃない事ぐらい
 わかるよ。それならそれではっきり言ってくれ。
 君は本当に僕と結婚する気持ちがあるのかい?」

しばらく俯いていた初恵が、ようやく話し始めました。
「昭夫さん、ごめんなさい。確かに私の心の中には迷いがあるわ。
 この見合い話は、親が強引に勧めて来たものなの。
 私は今まで親の言う通りに生きてきたわ。
 多分是からもそうすると思う。 親の喜ぶ顔が見たいと思うから、
 私は昭夫さんを好きになるように努力するつもりよ」

初恵の言葉に、私はなにか釈然としないものを感じていました。
このままでは、親の為に仕方なく私と結婚するのだと言っているようなものです。

しかし、私はそれでも良いと思いました。心の迷いとはどう言うものなのか
分かりませんでしたが、絶対にこの俺を好きにさせてやると決心したのです。

それから二週間後、仲人を通して初恵が結婚を承諾するという返事を貰いました。

私は有頂天でした。あんな気立ての良い美人を嫁に貰える自分は
日本一幸せな男だと、心から思っていたのです。

それから数ヵ月後、私達は大勢の来賓を前に結婚式をあげ、
新婚旅行に出掛けました。
  1. 2012/10/21(日) 14:52:04|
  2. 妻(夫)を語る
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